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  「日本画と洋画の違いは何ですか?」と、よく聞かれます。 説明はするのですが、いつもなかなか的を得た答えができず、もどかしさを感じています。そこで、答えになるかわかりませんが、私が日本画・東洋画を志すようになったきっかけについてお話ししたいと思います。洋画・日本画の違いについて、考えていただける一助になれば幸いです。

 1989年の夏から1990年の冬にかけての半年間、オランダに滞在する機会に恵まれました。当時はまだ、東欧には行ける状態になく、友人と共に、西欧各国の主要な美術館や聖堂を回りました。イタリアでは、ミケランジェロの、人間存在と真正面からぶつかったような重厚な表現に圧倒され、またアンセルム・キーファー等の現代美術の、哲学的・知的な側面にも圧倒され、自分に何ができるのかと疑問を感じた後、本当の意味で日本画に出会いました。オランダ在住の日本人の家に招かれた時、ふと手にした雑誌の中に、小林古径の「鶴と七面鳥」の屏風絵があったのです。見た瞬間に、画面から、清廉で大らかな空気がふわっと流れ出てきたようで、強い衝撃を受けました。『この美は欧州にはない。できることなら、自分はこういう絵を描きたい。』と、そう思いました。

 その後に、絵の師の導きで中国画にも触れ、その壮大で奥深い世界観にも圧倒されましたが、やはり私の中での原体験は、古径の絵を見た時の、あの清廉でおおらかで、善悪の彼岸をこえてあるような不思議な感覚です。 のちにそれを、私は『やまとごころ』と感じるようになりました。ただ、同時にまた、中国の文人画の、深い教養と画が一体となった世界、董其昌の『万巻の書を読み、万里の道を行く』ような絵の世界にも、憧れます。

 私は、西洋美術と東洋美術は、共に素晴らしい人類の至宝だと思っています。同じ角があって四本足であっても、鹿と牛が違う種の動物であるように、日本画と洋画も、進化の過程で枝分かれし、異なる道を歩んできたのです。その違いは、芸術の、世界の幅の広さと豊かさの象徴だと、私は思っています。異なる、ということは、素晴らしいことだと思います。

 非才の身ながら私が日本画の道を選んだのは、その優劣からではなく、極めて個人的で素朴な感動からです。それだけです。

 想いは強く、しかしなかなか絵にすることは難しく、いつかいつか、と思いながら、製作に励んでいます。

                                     
           日本画家 日展会員 藤島大千

 
 
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